竹中平蔵氏「雇用調整助成金を出し雇用を繋ぎ止める…そうではない」 もう静観していてくれないか 藤田孝典 | NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教

98竹中平蔵氏「雇用調整助成金を出し雇用を繋ぎ止める…そうではない」 もう静観していてくれないか
藤田孝典 | NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授
6/4(木) 13:04
雇用調整助成金の支給と雇用維持に疑問を投げかける竹中平蔵パソナグループ会長(写真:つのだよしお/アフロ)

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竹中平蔵氏が雇用調整助成金支給と雇用維持にさえ疑問を呈する
人材派遣事業、生活困窮者支援事業(行政委託)をおこなうパソナグループ会長の竹中平蔵氏がまた驚くべき発言をTwitterでおこなっている。

注意深く見て警戒を怠らないでほしい。

竹中氏は経済学者という肩書とともに、元閣僚であり、今も各政府委員を務め、厳然と社会政策に影響を行使できる立場にある人物だ。

今回の雇用調整助成金、雇用維持の方針にも疑問を呈しており、注視しなければならない。


竹中氏は6月4日のTwitterで、「日本の失業率は2.6%と低い。しかし失業者178万人に対し「休業者」が652万人。潜在失業率は11%になる。政府が雇用調整助成金を出し、雇用を繋ぎ止めるからだ。不況が短期間でかつ産業構造が変わらないなら、それもいい。しかしそうではないだろう。こうした点が国会などで一切議論されないのは問題だ。」と発言。

つまり、日本の潜在失業率がすでに11%になっている現状を憂い、その原因は雇用を無理やりつなぎとめているからだ、というのである。

竹中氏は以前より、日本は従業員を解雇しにくいことで生産性も向上せず、経済成長も鈍化し、産業構造も旧態依然だと主張してきた。

彼にとって、雇用の維持、安定的な雇用は、別の誰かの雇用を奪い、潜在失業率を引き上げている要素だと言いたいのだろう。

未だにそんな持論を展開するのか、と呆れてしまう。

実際に2000年以降、竹中氏はこの破滅的な持論を政策に反映させ、いわゆる正社員ではなく、派遣労働者非正規労働者を増やし、雇用の流動化が一定進んできた。

彼の持論を政策で実行した時期もあったのである。まさに悪魔の試行実験であった。

以前は派遣労働者など、ごく限定された働き方だったが、これによって広く様々な産業に不安定な働き方が普及していった。

企業側から見れば雇い止めしやすい「雇用の調整弁」であるから、短期的には人件費抑制の方針とセットで導入されていった。

それでも潜在失業率は減っていない。劣悪な雇用を増やしても、人々はそこに従事したいと思わないという結論である。

いわゆるニートやひきこもりという現象が生まれ、劣悪な雇用、働き方を率先して拒否する若者が生まれたことも象徴的である。

安定雇用、大事に定年まで寄り添う働き方を補償しないのに、企業の都合、竹中氏の持論で労働者は動くわけがないだろう。

さらに言えば、繰り返し課題としてあがりながら、一向に改善が見られない保育、育児の負担軽減、体制整備をしなければ、潜在失業率は減らない。

つまり、今回も竹中氏の主張である雇用を流動化するか否かと潜在失業率は関連性に乏しい。

日本の社会保障の弱さを鑑みれば、雇用調整助成金を継続して使いやすく改変し、最優先に雇用を是が非でも維持するべきだ。

雇用をつなぎ止めずに流動化させていった約20年で何が起きただろうか。

世界各国は経済成長をして、賃金上昇もしているなか、日本は経済成長も実質賃金も上がらなかった。

派遣労働者非正規労働者は増え、ワーキングプアは増大した。竹中氏ら富裕層は増えたが、貧困層も膨大に増えて格差は拡大した。

若者は安定した雇用ではないため、将来の見通しが立たず、世帯形成をすることにも困難が生じた。

少子化の加速度合いは深刻なものだ。地域によってはシステムが再生産、次世代への継承ができなくなっている。

私を含む「就職氷河期世代」と呼ばれる人々の苦悩を加速させたのは、まさにこの竹中方針と言っていい。

過去にも竹中氏のこれまでの言動に異議申し立てをしてきたので、参照いただきたい。

竹中平蔵パソナ会長「世界は数年痛い目を見る」 いやあなたのせいですでに散々痛い目を見ています

いずれにしても、彼は日本の雇用を流動化し、貧困化を押し進め、持続不可能な社会構造に転換させてしまった政策責任者である。

何度も繰り返しになるが、彼の戯言に付き合う必要性はないし、日本にその余裕はもうない。

結論から言えば、竹中氏はこれまでの政策の失敗や失政を総括、反省すべき立場である。

その立場が未来、将来に向けた提言や意見を未だに述べることができる社会は衰退するに決まっているだろう。

ましてや、この多くの労働者が将来を不安に感じているタイミングで、雇用調整助成金や雇用維持に疑義を呈すること自体、手遅れ感が甚だしい。

市民生活を持論の実験場か、モルモットくらいにしか思っていないのではないか。

人々が困れば電通パソナが儲かる日本社会
さらに、以下の記事にもある通り、竹中氏らは市民生活の苦境に対し、早速、我田引水のために動き出していたことも判明している。 

新型コロナウイルスの影響で売り上げが半減した中小企業などに最大二百万円を給付する政府の持続化給付金で、給付遅れが相次いでいる。

実際の給付作業は、大手広告会社の電通や人材派遣会社のパソナが設立した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」に業務委託されている。

約二兆三千億円の給付用資金を扱い、国から七百六十九億円の委託料が払われているが同法人は給付遅れに「回答を差し控える」とコメント拒否。

実質的な運営形態も開示しておらず公共事業として不透明な面が目立つ。(桐山純平)

出典:給付遅れるコロナ「持続化給付金」 769億円で受託した法人の不透明な実態 5月28日 東京新聞
政府がおこなう緊急経済対策である持続化給付金事業など、支援給付事務を実質的に請負い、その事務経費・マージンを取得するビジネスだ。

市民生活が困窮し、経済危機が到来しても、政府の事業を請け負えば、利益は確保できる。

極端に言えば、税を拠出している小規模事業者、労働者が困れば困るほど、彼らの懐には金が舞い込んでくることになる。

むしろ、生活課題を抱えてくれた人が増えれば、事業規模が拡大するので、その環境整備に心血を注いでいることも理解できる。

それゆえに「典型的な貧困ビジネス」だと批判されても、甘受せざるを得ない立場だろう。

上記のような政府が実施する支給事務は、電通パソナなどの政商が請け負うのではなく、公務員が直接実施するべきだ。

この間、公務員削減、公共の縮小も深刻なレベルで進んだ。

厚生労働省、福祉課、保健所、ハローワーク労働基準監督署、どこでも最前線の現場には人が足りない。

本来は率先して、非営利で市民生活を支える公務員の仕事が高い事務費を取る政商に奪われてしまっている。

新型コロナウイルスは様々な日本の仕組みの醜悪さを明らかにしてくれている。

新型コロナウイルス感染が小康状態である現在、いろいろなシステムを根本的に振り返り、誰がどのような思惑で動いているのか注視してほしい。

併せて、次の20年の日本社会を構想する際に、誰に付託をするべきか、誰の言葉を尊重するべきか、社会を破壊しないためにも、それぞれが考え、意見を持ってほしい。


藤田孝典
NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授
社会福祉士。生活困窮者支援ソーシャルワーカー。専門は現代日本の貧困問題と生活支援。聖学院大学客員准教授。北海道医療大学臨床教授。四国学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク玉代表。ブラック企業対策プロ...もっと見る
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