日本経済新聞

橋下市長支える元官僚5人組 「大阪から国を変革」
府市統合本部などに集結
2012年1月2日 19:19

橋下徹大阪市長松井一郎大阪府知事大阪都構想実現のための戦略組織と位置付ける府市統合本部。2011年12月27日のメンバー初会合に合わせ、ブレーンとなる特別顧問が府市双方から委嘱された。作家の堺屋太一、慶応大教授の上山信一、元経済産業省の古賀茂明、政策コンサルタントの原英史の4氏だ。ほかに関西学院大教授の山中俊之氏が市の人事改革について助言する特別顧問に委嘱された。


特別顧問4人が出席した府市統合本部の初会合。(手前右から)原英史、上山信一、橋下市長、松井知事、堺屋太一、古賀茂明の各氏(12月27日、大阪市住之江区)
5氏に共通するのはいずれも中央省庁のキャリア官僚だったことだ。堺屋、古賀、原氏が通産省(現経済産業省)、上山氏が運輸省(現国土交通省)、山中氏が外務省。官僚だった期間はまちまちだが、国(霞が関)の硬直した体制や制度を問題視し、行政・公務員制度改革コンサルティングや政策提言をしてきた。「国でできなかったことを大阪でやる」。ブレーンたちの頭にあるのは大阪の改革を突破口にして国の変革を促すことだ。

5氏のスタンスや考え方は、近著を読めば瞭然とする。橋下氏と共著の形で「体制維新―大阪都」を著した堺屋氏は30年以上前に退官、経済企画庁長官も務めており、元官僚は経歴の一部分にすぎないが、霞が関での勤務・閣僚経験をもとに中央集権・公務員制度の改革を訴え続けている。財政悪化や地域経済の疲弊が続く大阪は日本の衰退を先取りしている、大阪の体制変革は日本全体の体制改革につながる、という認識だ。


堺屋太一氏=共同
橋下氏を知事選に担ぎ出した立役者の1人だけに、橋下改革への思い入れは強い。「大阪都構想明治4年廃藩置県以来の体制変革」と歴史的視野を強調して改革を鼓舞する。府市統合本部では大御所的な立場で意見を述べると見られていたが、初会合で今後の会合の日程調整を促して「頻繁出席」への意欲を見せ、関係者を驚かせた。

知事時代から橋下氏のブレーンを務める上山氏は大阪都構想の理論的支柱だ。著書「大阪維新」はそのまま地域政党大阪維新の会の「基本的な考え方と指針」になっている。運輸省からマッキンゼー・アンド・カンパニーに転じ、企業改革のコンサルティングを手掛ける一方、自治体関係者らが参加する「行政経営フォーラム」を創設、様々な自治体で改革の指南役を務めてきた。著書「自治体改革の突破口」では自身の長年の経験をもとに行政改革のあり方を論じている。


上山信一
 上山氏はかねて行財政改革規制緩和の必要性を認識しながら思い切った手を打てない国の現状を批判、「大きすぎて身動きできなくなっている」国より地方の方が改革がしやすいと語ってきた。その改革手法の基本は、縦型でがんじがらめになっている組織や制度を解きほぐし「横」にすること。企業でいえば事業部門を超えたビジネスモデルを創造し、稼げるようにする改革である。府市の枠を取り払って行政区域や組織を再編し、事業を民営化したり統合したりする大阪都構想はその考え方に基づく大阪再生策になる。

大阪都構想の意義は大阪のかたちが変わることだけにとどまらない。地方が発案して国の制度を変えるケースになる意味が大きい。通常は改革の作戦を明かさない黒子役が表舞台に出てきて説明役をこなしたのは、構想実現には選挙での勝利=有権者の理解と支持が必要と認識していたためだ。「実現によって中央集権体制に風穴が開き、地方を縛ってきた様々な法制度や基準が地域主権型に変わっていくきっかけになる」と上山氏は見通す。

ベストセラー「日本中枢の崩壊」の著者、古賀氏は大阪維新の会から大阪府知事選挙への出馬を打診された。堺屋氏が橋下氏に古賀氏を推薦したとされ、現知事の松井氏らが出向いて要請した。経済産業省幹部でありながら霞が関(官庁の機構)を痛烈に批判、"危険人物"扱いだった古賀氏に白羽の矢を立てたのは、現在の政治・官僚システムについての現状認識や改革の方向性が維新の会とほぼ一致していたためだ。

「競争のないところには停滞、腐敗が生まれる」。霞が関で抱いていた日本の行政などについての問題意識は退官後さらに強まったという。府市統合に向けた事業の仕分けやアジアの都市間競争に勝つ経済成長戦略の立案のほか、原発への依存を少なくする関西電力への株主提案など難しい政策についても助言したり作戦を練ったりする立場になる。「当面は目の前の課題をこなすので精いっぱい」と語るが、地域主権・分権を志向する大阪の改革は、いずれ既得権益を守ろうとする様々な勢力と闘う局面が訪れると見越している。


特別顧問に就任した元キャリア官僚の近著。官僚機構や公務員制度の問題点を指摘した内容が多い。
 安倍晋三麻生太郎内閣で公務員制度改革に取り組んだ原氏は著書「官僚のレトリック」で「改革に立ちふさがる官の論理」「改革を骨抜きにする巧みな抵抗」を自身の体験をもとに解説している。ただ、霞が関=抵抗勢力という単純な構図ではないとし、「本来は高い志を持っていた官僚たちが自分たちの作り出した論理によって自縄自縛に陥っている」現状を変えたい思いが強いという。

退官後、政策工房社長として政策コンサルティングをしている原氏は大阪府の人事制度改革について助言する特別参与を経て大阪維新の会職員基本条例案作成にかかわり、最近は大阪都構想を実現するみんなの党地方自治法改正案づくりも担当した。

大阪の改革を「地方にできることは地方にどんどん任せてしまうように仕向ける改革」と規定。「現行の法制度ではできないことをあえて打ち出していくと、国の制度の方がおかしいという認識が広がる。あるいは国がやれないことを大阪でやってできてしまうと、やれる仕組みに変えざるを得なくなる」と語る。古賀氏と原氏は霞が関改革を志向する官僚との付き合いを続けているが、「最近大阪で仕事をしてみたいと語る若いキャリアが増えてきた」と口をそろえる。

人材開発などのコンサルタントをする山中氏は著書「公務員の人材流動化がこの国を劇的に変える」で官民間の人材流動化の必要性を訴える。外務省時代、ある席で「キャリア公務員制度はもうやめた方がいい」と話したところ、上司からしかられた体験が忘れられないという。自分たちを守る仕組みをその人たちの側から壊すことなどできない――退官後コンサルティング会社に転じ、その後独立して多くの組織人事改革に携わってきた経験からの実感だ。


山中俊之氏
「公務員の人事制度改革で、運用や評価、フィードバックなどソフト面の改革は比較的スムーズにできるが、給与表の改定やポスト削減など仕組み面の改革は強い抵抗に遭う」と山中氏。橋下府知事時代、特別参与として府の人事制度改革に関与し、昇任しなくても給与が上がったり、幹部でも在任期間によって給与が違ったりする仕組みを見直した。

橋下氏は大阪市の賃金制度を大阪府に合わせる方針を示しており、山中氏は府で取り組んだ改革を市に導入するブレーンになる。「役所には参事とか主幹という肩書の職員が大勢いるが、その職員がどんな仕事をしているのか、本当に必要なのかよく分からない。調べようとしてもブロックされる。職員を維持するために仕事を作っているという本末転倒の実態があるのではないか」と公務員組織の問題点を見据える。

これら改革の指南役は非効率の排除、効率の追求という役回りを担うが、「多くの現場で公務員が懸命に仕事に取り組んでいることは分かっている」という。「ただ、財政がこれほど厳しくなり民間が苦しんでいる中、役所が厳しい改革をせずにどうしてさらに負担を求めることができるのか」。民主党政権の改革姿勢を疑うように、古賀氏と山中氏は同じことを口にした。

元キャリア官僚がつくった「官僚国家日本を変える元官僚の会脱藩官僚の会)」。発起人の一人でもある上山氏はこの会に参加する元官僚たちを大阪府など自治体改革の場につないだ。ふだんは勉強会や情報交換などをしている緩やかな集まりだが、タイトル通りの活動を大阪を舞台に本格的に始めたといえるのかもしれない。

編集委員 堀田昇吾)

堺屋太一氏 東京大卒。通産省(現経済産業省)入省。大阪万博の企画に携わり、退官後、作家や博覧会のプロデューサーとして活躍した。1998年7月から2000年12月まで経済企画庁長官。社会評論や政策提言に関する著作も多い。76歳。
上山信一氏 京都大卒。運輸省(現国土交通省)入省。退官後マッキンゼーで企業の改革。渡米して政策研究などに取り組み、2007年から慶応大総合政策学部教授。大阪府新潟市など多くの自治体の改革にブレーンとしてかかわってきた。54歳。
古賀茂明氏 東京大卒。通産省(現経済産業省)入省。経済産業政策課長、中小企業庁部長、公務員制度改革本部審議官などを歴任。公務員制度や官僚批判の論文を発表し、大臣官房付に長期間取り置かれる。2011年9月26日付で辞職。56歳。
原英史氏 東京大卒。通産省(現経済産業省)入省。内閣安全保障・危機管理室などを経て2007年、渡辺喜美行政改革担当大臣の補佐官に就任。公務員制度改革本部を経て09年退官。政策コンサルティングをする政策工房を設立し社長。45歳。
山中俊之氏 東京大卒。外務省入省後、中東外交や地球環境問題を担当。退官後日本総研で人事制度や研修のコンサルティングに従事。退社後、人材開発をする会社グローバルダイナミクスを設立。関西学院大教授も務める。43歳。
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