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毎日新聞が執拗に続ける「イジメ報道」について考える
岸 博幸
政治・経済 岸博幸の政策ウォッチ
2019.6.21 5:03
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毎日新聞社
国家戦略特区WG関係者を攻撃する毎日新聞の報道姿勢に、疑問はないか Photo:PIXTA
印象操作と非常識な取材
毎日が攻撃する国家戦略特区WG関係者
 マスメディア、つまり社会の公器であるはずの毎日新聞が、特定の人物に対する「イジメ」を執拗に続けています。と言っても、読者の皆さんの中にはご存じない方も多いと思いますので、今回は、この現実について詳しく説明します。内容が若干ややこしいため、長くなることをお許しください。

 この「イジメ」の対象が、加計学園問題で有名になった国家戦略特区に関するものなので、最初にこの制度の仕組みについて改めて説明しておきます。

 国家戦略特区とは、自治体が要望に基づいてその地域限定で規制改革を行う制度で、自治体が活用できる規制改革のメニューは法律で明示されています。また、規制改革の追加や自治体の特区認定を行う場として、首相以下の関係閣僚と民間有識者による国家戦略特区諮問会議が設置されています。

 そして、諮問会議で議論する前段階で、自治体や民間企業からの規制改革の要望や自治体からの特区認定の要望を聞いて助言をするとともに、改革要望のあった規制を所管する省庁と折衝する(規制の権限を持つそれら省庁が規制改革を実行するよう促す)場として、内閣府に“国家戦略特区WG(ワーキンググループ)”が設置されています。そのWGの座長代理を務める原英史氏(政策工房社長)が、毎日新聞による「イジメ」の対象になっているのです。

 具体的には、毎日新聞はまず6月11日の1面トップで「特区提案者から指導料 WG委員関連会社 提案者から指導料200万円 会食も」という見出しの記事を掲載しました。

 しかし、ネット上で公開されている当の原氏の反論によれば、規制改革の要望を行った会社が200万円を払った特区ビズ社という特区関連のコンサル会社は、原氏の知人が設立してはいるものの、原氏はその経営には一切関わっておらず、そこから1円も受け取ったことはないとのことです。

 また記事では、要望を行った会社の社長と原氏が会食したとありますが、会食したとされる日の原氏のスケジュールから、それもあり得ないようです。


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毎日新聞が執拗に続ける「イジメ報道」について考える
岸 博幸
政治・経済 岸博幸の政策ウォッチ
2019.6.21 5:03

 原氏は経産省時代の私の後輩であり、かつ私もWGの委員ですので、原氏に直接厳しく問い質したのですが、彼を長年知る者として原氏の主張に嘘はないと私は思っています。それにもかかわらず、毎日新聞は“関連会社”という不正確な言葉を用い、原氏が規制改革の要望を行った会社から金銭を受け取って会食もしているような印象を読者に与える見出しで、記事を書いているのです。

 なお、この記事には「原氏が公務員なら収賄罪に問われる可能性もある」という大学名誉教授のコメントまであります。そもそも原氏は公務員ではないし、かつ金銭授受や会食の事実もないというのですから、これは意味のないコメントです。それをわざわざ掲載したというのは、「おそらく原氏は収賄罪に該当する悪いことをしている可能性が大きい」ということを強調したかったのでしょう。

ある雑誌編集長の本音
「疑惑があるとはとても書けない」
 かつ、ここでもう1つ問題視すべきは、この記事を書くに当たっての取材のやり方です。これも原氏がネット上で公開していますが、毎日新聞の記者の取材のやり方は“取材の暴力”と言えるような、非常識なものだったようです。

 関係者の勤務先や自宅を突然訪問し、「原さんの功績を称えたいんだ」と偽りの目的を言って取材を始める。始まると長時間にわたって誘導尋問のような質問をする。かつ関係者のコメントを疑惑の立証につながる形に勝手につなぎ合わせる、といったことをやっていたそうです。

 これらの事実から、6月11日の毎日新聞の記事は、記者の勝手な決めつけと不正確な事実に基づく疑惑と言うしかありません。

 ちなみに、他の新聞やテレビがこの疑惑を一切報道していないことが、いかにこの疑惑がねつ造に近いレベルであるかを如実に物語っていると思います。実際、私の知り合いの雑誌編集長は、「週刊誌でさえも、この件で疑惑があるとはとても書けない」と言っていました。
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規制改革プロセスへの
無理解に基づくWG批判
 しかし、毎日新聞は原氏への攻撃を止めていません。翌6月12日から15日まで、連日1面トップで、今度は原氏が座長代理を務めるWGを攻撃対象にして、原氏の疑惑を追及しているのです。

 具体的には、2つの点を疑惑の材料として追及しています。1つ目は、WGの場で特区ビズ社がコンサルしている会社の規制改革要望に対して、原氏が助言しているのは問題だという点です。2つ目は、WGの開催状況はHP上で公開されているにもかかわらず、WGがその会社から提案内容を聞くヒアリングを行ったという事実を隠蔽した(非公開にした)のはおかしいという点です。

 しかし、まず第1点目については、政策立案の現実を理解していないか、またはあえてその現実を無視しているとしか思えません。

 たとえば、これが政府の補助金の申請・給付ならば、申請者である企業と申請の受け手である政府組織の関係は、いわば“受験生と試験官”の関係と同じであり、限りある予算に対する多数の申請の中から“合格者”を厳正に選ぶ必要があるため、“試験官”が特定の“受験生”に助言することは絶対にダメです。

 これに対して、規制改革の場合は、規制改革の要望者とその受け手(特区WG)の関係は、訴訟における“原告と弁護士”の関係に近いと言えます。

 というのは、規制改革のプロセスは基本的に、まず民間や地方が規制改革を要望し、それに対して、その規制を所管する省庁の側が、規制による既得権益に配慮しつつ規制改革を実行するかどうかを決めるからです。規制を所管する省庁は、自分が権限を持つ規制は緩和したがらないのが常なので、この構図の中でWG(及びそれが置かれる内閣府)は規制改革を推進する、つまり提案した民間や地方を応援する立場になります。

 したがって、規制改革を要望した企業がWGで規制を所管する省庁と向き合うことに際して、規制改革を推進するのが仕事の(原氏を含む)WGメンバーと内閣府が、規制改革を要望した側に助言するのは当たり前のことなのです。

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非公開を隠蔽と決めつけ、加担する野党
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岸 博幸
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 かつ、ここで大事なのは、これが補助金の給付の場合なら、補助金をもらえる合格者は限られているのに対して、規制改革が行われた場合、そのメリットは不特定多数の新規参入者が享受できるということです。したがって、規制改革を最初に要望した者にWGメンバーが助言することは、特定の者を優遇することにはなり得ません。

 このように考えると、特区ビズ社とコンサル契約をしている会社にWGで原氏が助言したことを問題視する毎日新聞の記事は、明らかに的外れです。それにもかかわらず、それを1面トップで連日にわたって報道するというのは、原氏の疑惑を決定づけたいためにやっているとしか思えません。

非公開を隠蔽と決めつけての
弱者イジメに加担する野党
 しかし、第1点目以上に許しがたいのは、第2点目に関する毎日新聞の主張です。「WGが特区ビズ社とコンサル契約をしている会社から行なったヒアリングを隠蔽していたのは問題だ」「原氏がその会社といかがわしい関係にあるので隠蔽したのではないか」と言いますが、こうした主張は規制改革の現実を無視しているのみならず、規制改革の要望を行った者を危険に晒しかねないのです。

 規制改革を提案する者の立場に立って考えてみれば、すぐわかることですが、民間企業や地方自治体が政府に規制改革の提案をすることは、非常に大きなリスクを伴う勇気が必要な行為です。というのは、規制改革を提案しているとわかったら、その規制の存在によって利益を享受している既得権益層の恨みを買い、手ひどい報復やイジメを受けることになりかねないからです。実際私は、規制改革を提案したために、ひどい恫喝や報復を受けた企業や自治体をいくつも知っています。

 したがって、WGに規制改革を要望した者が、そのリスクを恐れて会議の非公開を希望した場合、または希望がなくてもリスクが生じる蓋然性が高いと考えられる場合は、WGの会議の内容を非公開とするのは当然です。

 それは、企業の内部通報制度で、内部通報に関する秘密保持を徹底する(通報者の氏名を秘密にする、通報があったことも秘密とする、経営陣から独立した通報窓口を設置するなど)のが当然であるのとまったく同じです。ついでに言えば、マスメディアが記事を書く際の情報源を秘匿するも同じです。現実を考えると、規制改革のプロセスでも弱者保護は不可欠なのです。

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なぜ毎日新聞は「イジメ」を延々と続けるのか

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 かつ、ここで大事なのは、これが補助金の給付の場合なら、補助金をもらえる合格者は限られているのに対して、規制改革が行われた場合、そのメリットは不特定多数の新規参入者が享受できるということです。したがって、規制改革を最初に要望した者にWGメンバーが助言することは、特定の者を優遇することにはなり得ません。

 このように考えると、特区ビズ社とコンサル契約をしている会社にWGで原氏が助言したことを問題視する毎日新聞の記事は、明らかに的外れです。それにもかかわらず、それを1面トップで連日にわたって報道するというのは、原氏の疑惑を決定づけたいためにやっているとしか思えません。

非公開を隠蔽と決めつけての
弱者イジメに加担する野党
 しかし、第1点目以上に許しがたいのは、第2点目に関する毎日新聞の主張です。「WGが特区ビズ社とコンサル契約をしている会社から行なったヒアリングを隠蔽していたのは問題だ」「原氏がその会社といかがわしい関係にあるので隠蔽したのではないか」と言いますが、こうした主張は規制改革の現実を無視しているのみならず、規制改革の要望を行った者を危険に晒しかねないのです。

 規制改革を提案する者の立場に立って考えてみれば、すぐわかることですが、民間企業や地方自治体が政府に規制改革の提案をすることは、非常に大きなリスクを伴う勇気が必要な行為です。というのは、規制改革を提案しているとわかったら、その規制の存在によって利益を享受している既得権益層の恨みを買い、手ひどい報復やイジメを受けることになりかねないからです。実際私は、規制改革を提案したために、ひどい恫喝や報復を受けた企業や自治体をいくつも知っています。

 したがって、WGに規制改革を要望した者が、そのリスクを恐れて会議の非公開を希望した場合、または希望がなくてもリスクが生じる蓋然性が高いと考えられる場合は、WGの会議の内容を非公開とするのは当然です。

 それは、企業の内部通報制度で、内部通報に関する秘密保持を徹底する(通報者の氏名を秘密にする、通報があったことも秘密とする、経営陣から独立した通報窓口を設置するなど)のが当然であるのとまったく同じです。ついでに言えば、マスメディアが記事を書く際の情報源を秘匿するも同じです。現実を考えると、規制改革のプロセスでも弱者保護は不可欠なのです。

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なぜ毎日新聞は「イジメ」を延々と続けるのか

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毎日新聞が執拗に続ける「イジメ報道」について考える
岸 博幸
政治・経済 岸博幸の政策ウォッチ
2019.6.21 5:03

 そうした現実を無視して、非公開を隠蔽と決めつけてWGと原氏を非難し続けているのだから、毎日新聞は弱者保護よりも疑惑を盛り上げる方を優先したことになります。

 そしてさらに残念なのは、毎日新聞の報道を受けて、国会で連日開催されている野党PTです。ここで野党議員は連日、内閣府や関係省庁の役人を呼びつけて、WGが行なったヒアリングの“隠蔽”について詰問していますが、その中で、一部の野党議員は規制改革を提案した会社の具体名まで暴こうとしています。

 つまり、毎日新聞と野党議員は寄ってたかって、既得権益者と比べて圧倒的に力も立場も弱い民間企業を危険に晒そうとしているのです。これほどひどいマスメディアと国会議員が結託した弱者イジメは、見たことがありません。

なぜ毎日新聞
「イジメ」を延々と続けるのか
 それでは、なぜ毎日新聞は疑惑を主張し、「イジメ」を延々と続けるのでしょうか。可能性として最も考えられるのは、原氏を潰したい人たちと通じているということです。原氏はWG座長代理として、国家戦略特区での規制改革を主導してきたのみならず、規制改革会議という別の組織でも、委員として様々な規制改革を推進してきました。その結果として、当然ながらかなり多くの既得権益層(官僚、業界団体、族議員)の恨みを買っているはずです。

 毎日新聞が今回の疑惑を報道するに当たっては、省庁の内部情報をかなり握っていた節があります。かつ、毎日新聞が疑惑キャンペーンを始めたのは、特区の法律改正(スーパーシティ法案)が閣議決定されたすぐ後で、かつ規制改革会議のメンバーがこれから一新される前という絶妙のタイミングであったことも考えると、おそらく原氏を恨む勢力からの情報提供を受けて、動いたのではないかと思います。

 しかし、それが結果的に既得権益を守ることにつながっているかもしれない可能性があることを、毎日新聞は気づいていないのでしょうか。既得権益の擁護に力を貸す一方で、改革勢力と弱者に対する「イジメ」を延々と続けているようでは、毎日新聞はもはや社会の公器とは言えないと思います。毎日新聞の関係者で心ある人には、早くこの当たり前の事実に気がついて欲しいと願うばかりです。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)

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