国家戦略特別区域について

国家戦略特別区域(こっかせんりゃくとくべつくいき)は、日本経済再生本部からの提案を受け、第2次安倍内閣が成長戦略の柱の一つとして掲げ、国家戦略特別区域法2条で地域振興と国際競争力向上を目的に規定された経済特区である。国家戦略特区(こっかせんりゃくとっく)と略される。

概要 編集
あらゆる岩盤規制を打ち抜く突破口とするために[1]、内閣総理大臣が主導して、地域を絞ってエリア内に限り従来の規制を大幅に緩めることを目的とする[2]。また、この区域は「解雇ルール」、「労働時間法制」、「有期雇用制度」の3点の見直しを対象としている[3]。

経緯 編集
2013年(平成25年)10月21日、午前の衆院予算委員会で、雇用分野を所管する厚生労働相など、関係分野の大臣を、国家戦略特区ごとに設ける統合推進本部から、外す考えを表明。この件に関して安倍晋三総理は、「意見を述べる機会を与えることとするが、大切なのは意思決定。意思決定には加えない方向で検討している」と語った[4]。
産業競争力会議竹中平蔵は、総理の主導により「地方から国にお願いして国が上の立場から許可するというもの」ではなく、「国を代表して特区担当大臣、地方を代表して知事や市長、民間を代表して企業の社長という国、地方、企業の3者統合本部でミニ独立政府の様に決められる主体性を持った新しい特区」であると語り、「特区を活用して岩盤規制に切り込みたいと思っている」と語っている[5]。
特区の今後の方針について、竹中平蔵は、「(2014年)1月24日に召集される通常国会で国家戦略特区法をさらに磨き上げる」、「臨時国会で措置した特例措置は、あくまで暫定的な初期メニュー」、「さらに(規制改革の)項目を追加していかなければならない」、「更なる措置に向けて、早急な調整を進めるべき」というコラムを掲載しており、対象範囲を広げていく予定[6]。
諮問会議 編集

第44回国家戦略特別区域諮問会議(2020年5月)
国家戦略特別区域諮問会議(こっかせんりゃくとくべつくいきしもんかいぎ)は、国家戦略特別区域法に基づいて設置された重要政策に関する会議。成員は以下の通り。

議長 安倍晋三内閣総理大臣
議員
麻生太郎(副総理 兼 財務大臣
菅義偉内閣官房長官
北村誠吾内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革))
西村康稔(経済再生担当大臣 兼 内閣府特命担当大臣(経済財政政策) )
有識者議員
秋山咲恵(株式会社サキコーポレーションファウンダー)
坂根正弘(株式会社小松製作所相談役)
坂村健東洋大学情報連携学部 INIAD学部長)
竹中平蔵東洋大学教授 慶應義塾大学名誉教授)
八田達夫(アジア成長研究所理事長 大阪大学名誉教授)
論評 編集
アメリカ通商代表部(USTR)のウェンディ・カトラー次席代表代行は、アベノミクスの3本目の矢である「成長戦略」に謳われている規制緩和や透明性の確保などについて、「TPP交渉のうち1つの焦点となっている非関税分野で、アメリカが目指すゴールと方向性が完全に一致している」、「(TPP交渉の非関税分野の議論は)ほとんどすべて安倍首相の3本目の矢の構造改革プログラムに入っている」と語り、歓迎している[7]。
経済ジャーナリストの東谷暁は、「(国家)戦略特区は間違いなくTPPの受け皿」、「安倍政権の成長戦略は、『アメリカがTPPやそれと並行して行われている二国間交渉で要求していること』をほとんど全て満たしています」、「規制緩和に反対する人たちを「お白洲」に引っ張り出してみんなで批判し、規制緩和を進める」と述べている[8]。
NPOフローレンス代表理事駒崎弘樹全国小規模保育協議会理事長は安倍政権の保育政策を批判してきたと述べているが、国家戦略特区は「これまで変えたくても変えられなかった、時代遅れや陳腐化してしまっている制度を、一部の地域で実験的に変えてみようよ」と出来る制度だとして評価している。駒崎は国家戦略特区担当者と共に 「夏休み中の年1回じゃないと会場が安くレンタル出来ない」などという理由で抵抗する厚労省に協議して、国家戦略特区として「地域限定保育士」という名前で複数の特区地域で試験を2回開催することが決まった[9]。自身のような一科目でも落とすと1年後の試験まで待たされた経験を活かして、年に2回にすることで同じような境遇だった受験者らを半年で再受験出来るようにすることで試験のレベルをそのままに保育士資格合格者を増加させた。特区導入以後に全国で年2回保育士の試験が受けられるようになり、1度に10科目合格出来なかった志望者が半年後に試験を受けられるようになった。更に駒崎は「規制の理由が制定が古くて確認出来なかった」など厚労省担当者に抵抗されていた規制目的が不明なままだった往診の16km規制を廃止して首都圏全域で往診可能すること[10]、小規模保育の全年齢化[11]、小規模保育に現場で不要な国による成人の障害者向けトイレ設置義務の緩和[12]などで成果を示した自負から全国でその規制が緩和されるなど特区制度の存在は日本の社会にとって良かったのは明白だと述べている。 駒崎は官僚の世界で省庁間でナワバリを犯すことはタブーとされてきたが、国家戦略特区は省庁の縄張りに入っていて、大臣レベルほその省以外の他の省庁所にモノを言う権利がないのと違う内閣総理大臣の権威で「これおかしくない?」「意味あるの、これ?」と特区による各省庁の既得権益や制度に穴を開けていくことになるので、総理の権限や内閣府側として期限を設けるのは必須だと理解を示している。特区制度をさらに官僚的に硬直している規制に対して、「そもそもこれは何で規制してるの?」と改めて問える『道具』だと定義している。全国でやる前に特区指定した一部の地域で既に意味を失ったと判断された規制を緩和・廃止して影響をみる実験が可能だとして、この地域で成果が出来たので全国に同じことを広げようとすることを可能にする制度としている。
指定区域・指定内容[13] 編集
東京圏(東京都・神奈川県・千葉県成田市・千葉県千葉市) - 国際ビジネス・イノベーションの拠点
関西圏(京都府大阪府兵庫県の全域または一部) - 医療等イノベーション拠点、チャレンジ人材支援
新潟県新潟市 - 大規模農業の改革拠点
兵庫県養父市 - 中山間地農業の改革拠点
福岡県福岡市・北九州市 - 創業のための雇用改革拠点
沖縄県 - 国際観光拠点
秋田県仙北市 - 「農林・医療の交流」のための改革拠点
宮城県仙台市 - 「女性活躍・社会起業」のための改革拠点
愛知県 - 「産業の担い手育成」のための教育・雇用・農業等の総合改革拠点
広島県愛媛県今治市 - 観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用特区
都市再生認定事業 編集
詳細は都市再生特別地区を参照。

大手町一丁目地区 - 2015年6月認定、初認定事業。OH-1計画。
大手町(常盤橋)地区 - 2016年4月認定、地上390mの超高層ビルを建設。
日本橋兜町茅場町一丁目 - 2018年3月認定
八重洲一丁目6地区 - 2015年9月認定(八重洲一丁目東地区再開発)
八重洲二丁目1地区 - 2015年9月認定
八重洲二丁目中地区 - 2017年9月認定
有楽町駅周辺地区
日比谷地区 - 2014年12月認定(東京ミッドタウン日比谷
虎ノ門一、二丁目地区(虎ノ門ヒルズ ステーションタワー)
虎ノ門一丁目地区(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー)
日比谷線新駅 - 2015年6月認定(虎ノ門ヒルズ駅)
虎ノ門四丁目 - 2015年3月認定(東京ワールドゲート 神谷町トラストタワー)
愛宕地区(虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー)
虎ノ門・麻布台地区
六本木五丁目地区
竹芝地区
芝浦一丁目地区(東芝ビルディング再開発)
三田三、四丁目地区
品川駅周辺地区 - 2016年4月認定
臨海副都心有明地区
羽田空港跡地地区
西新宿二丁目地区
八重洲一丁目北地区
日本橋一丁目中地区
日本橋一丁目東地区
八重洲二丁目南地区
豊島区庁舎跡地地区 - 2016年9月認定
京橋一丁目東地区
品川駅北周辺地区 - 2019年4月認定(高輪ゲートウェイ駅)
浜松町二丁目地区 - 2017年9月認定(世界貿易センタービル再開発)
赤坂二丁目地区 - 2018年6月認定
歌舞伎町一丁目地区 - 2018年6月認定
南池袋二丁目C地区 - 2018年6月認定
東京国際空港第2ゾーン地区(予定)
東池袋一丁目地区(予定)
新宿駅西口地区(予定)
内神田一丁目(予定)
虎ノ門一丁目東地区(予定)
主な成果 編集
神奈川県、大阪府沖縄県と千葉県成田市では地域限定保育士が創設[14]。
東京都や神奈川県、大阪市では家事代行サービスの外国人活用が解禁[15]。
千葉県成田市では国際医療福祉大学が国内で38年ぶりに医学部を新設[16]。
52年ぶりの獣医学部新設(加計学園問題参照)
民進党による特区停止法案 編集
2017年6月7日に、民進党は、加計学園問題への追及を強める中で「国家戦略特区法停止・見直し法案」を参議院に提出したが、廃案となっている[17]。

脚注 編集
^ “国家戦略特区”. 首相官邸. 2015年12月15日閲覧。
^ 国家戦略特区 28日正式決定(MSN産経ニュース、2014年3月25日)
^ 毎日新聞 2013年10月18日 国家戦略特区:方針決定 外国人医師を解禁…再生本部オリジナル
^ 日本経済新聞2013年10月21日 首相、国家戦略特区への関係大臣関与「意思決定には加えない」
^ 東京プレスクラブ 2013年9月10日
^ 日経BP2014年1月27日「岩盤規制」の突破口となる国家戦略特区、その生命線はスピード感
^ CBC NEWS 2013年11月7日 米高官「アベノミクスとTPPの目指す方向性が一致」 オリジナル
^ 月刊日本 2014年3月7日 東谷暁 国家戦略特区はTPPの受け皿だ
^ 国家戦略特別区域法 - e-Gov法令検索
^ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/menu.html
^ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/h290221.pdf
^ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai22/shiryou2_2.pdf
^ “指定区域”. www.kantei.go.jp. 2020年4月25日閲覧。
^ 保育士、実習受ければ実技試験免除 厚労省(日経電子版、2015年9月10日)
^ 外国人の家事代行、都も解禁 知事正式表明(日経電子版、2016年8月31日)
^ 国家戦略特区 地域を限定し規制緩和(日経電子版、2017年6月16日)
^ “国家戦略特区法停止・見直し法案を参院に提出”. 民進党. (2017年6月8日) 2017年7月22日閲覧。
関連項目 編集
構造改革特別区域
地方創生
規制緩和
アベノミクス
外部リンク 編集
国家戦略特区 - 内閣府地方創生推進事務局(首相官邸
国家戦略特区諮問会議 - 内閣府地方創生推進事務局(首相官邸
国家戦略特区ワーキンググループ - 内閣府地方創生推進事務局(首相官邸
最終編集: 8 日前、153.222.52.154
関連ページ
都市再生特別地区
内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域担当)
地方創生
Wikipedia
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